ここ何ヶ月かは小説ばかり読んでいる。今年の初めに国宝鑑真和上像を見たこともあって、「天平の甍」をチョイスした。
この本を読んだのは3度目だが14年ぶりで、ストーリーは完璧に忘れていた。それでも、鑑真が失明しながらも日本に着くことや、阿倍仲麻呂が日本に帰れないことは史上有名なので、進行をある程度予想しながら読める。本の裏表紙の内容紹介にも普照はただひとり故国の土を踏んだ
って思いっきり書いてあって、他のみんながどうにかなっちゃうということもわかっちゃうし。
初めて業行が登場してからこの寂しいキャラクターがなんとなく気になったのは、結末のあのなんともいえない喪失感を予感していたのかもしれない。この本の直前に読んだ小説は「平家物語」と「海辺のカフカ」で、いずれもタイプは違うが深い喪失感を覚える作品だった。
生きるということは失うということなのだろうか。人生とはいったい何なんだろう。とかずっと考えていた高校生の頃の気持ちが少しだけ甦ってきたような気がした。
最初取っ付きづらくてなかなか進まなかったが、いよいよ帰国という段になると(ってもう後半じゃん)、かなりのめり込んで読むことができた。読後感はかなり良かった。
(井上靖著、昭和39年)(2005年9月29日読了)