またマグリットかよ、と今さら感たっぷりな気がしたが、回顧展は実は13年ぶりなんだとか。そうか、シュルレアリスム展とかそういうので数枚見たりしてただけで、ちゃんとしたマグリット専門のはやってなかったんだ。むう、では、見なければなるまい。
前売券をネットで購入し、開催を待つこととした。
朝、出かける間際にチケットをプリントしてよく見たら、土日は混むから平日又は夜間がおすすめと備考欄に書いてあった。夜間は金曜だけじゃなくて、日は限られているが、土日にもあった。お、ちょうど今日、夜間開館日じゃん。というわけで、勧められるままに、夜間に行くことにした。
半券の提示で同時開催のルーブル美術館展が100円引きになる。そっちはすげー混んでそうだけど、夜、もし空いてたらついでに見てみるか。
美術館には16時過ぎに着いた。ルーブル展の入場待ちの行列が、1階を埋め尽くしていた。ちょっと喉が渇いたので地下に行ってアイスコーヒーなどを飲んでから、会場に入った。中はさほど混んでいなかったが、とにかく寒かった。係員が巡回しながらショールを貸し出しているくらいだ。
お馴染みのマグリットである。がっつかずに、テキトーに流し見すればいい。大事なのは、このマグリットに囲まれた空間を楽しむことなのだ。などと呑気に考えていたら、のっけから見たことのない作品が並ぶ。内容も、油絵やグワッシュが並んで重厚だ。会場に入るまでは図録を買う気はなかったが、もう速攻で購入することに決めた。
初めて見た作品では、ガラスの鍵がとても気に入った。岩稜の並ぶ高山の奥にマグリット的な卵型の巨石が置いてある(というか、乗っているというか)図である。巨石のポジションがあまりにも自然すぎるのがツボにきた。マグリットの巨石といえば、画面の大半を占めていることが多いが、これはほどよいサイズで、そのためにそこにあるのが当たり前のように見える。高山の空気感もリアルだ。
他には、旅の想い出。室内に佇む人とライオン、その他すべてが石である。無機質なようでいて、不思議と温かみも感じる。石の質感の表現が上手いんだなあとあらためて思った。
見知った作品も多数。白紙委任状やアルンハイムの領地、大家族あたりの安定感はさすがだ。横浜美術館所蔵の青春の泉と王様の美術館の2枚も、これほどの質量の展覧会の中でも存在感があった。
[LINK] (禺画像])
「光の帝国」は、22枚も描かれているが、今回来ている光の帝国IIはその中でも特に昼と夜のバランスが素晴らしいものだと思う。1994年展(新宿三越美術館)のは街灯が中央にあって構図が不安定だし、2002年展(Bunkamura)のは夜部分が多すぎて濃い。
これまた何枚も描かれているイメージの裏切りは会場の最後にひっそりと1枚。画中のキャプションは定番の Ceci n'est pas une pipe ではなく、Ceci continue de ne pas etre une pipe
だ。訳すと「これはいつまでもパイプではない」という感じだろうが、シュルレアリスム風に言うと「これはパイプではない続ける」だろうか。
一方で、自分の一番のお気に入りの心の琴線(山より大きなシャンパングラスに雲が入ってる)がなかったのは残念。そういえば、定番ものでもリンゴのモチーフがほとんどなかった。仮面を着けたリンゴとか、部屋いっぱいの巨大リンゴとか。